2013年 04月 30日
動物性蛋白質に含有されるカルニチンの腸管細菌叢による代謝が動脈硬化を促進する |
Intestinal microbiota metabolism of l-carnitine, a nutrient in red meat, promotes atherosclerosis
Robert A Koeth, Zeneng Wang, Bruce S Levison, Jennifer A Buffa, Elin Org, Brendan T Sheehy, Earl B Britt, Xiaoming Fu, Yuping Wu, Lin Li, Jonathan D Smith, Joseph A DiDonato, Jun Chen, Hongzhe Li, Gary D Wu, James D Lewis, Manya Warrier, J Mark Brown, Ronald M Krauss,
W H Wilson Tang, Frederic D Bushman, Aldons J Lusis & Stanley L Hazen
Nature Medicine advance online publication 7 April 2013
赤色肉は飽和脂肪酸およびコレステロールを多く含有し、先進国における赤色肉の高摂取は心血管疾患のリスクと関連しています。しかし、最近の前向きコホート研究のメタ解析では、飽和脂肪酸摂取量と心血管疾患の間には関連は認められませんでした。また、コレステロール含量も赤色肉摂取による心血管疾患のリスク上昇を説明できるほどのものではありません。
腸管細菌叢は腸管内の状態、免疫機能、栄養素およびビタミンの活性化さらには、肥満やインスリン抵抗性とも関連していることが示されてきました。著者らは食事性のコリンおよびphosphatidylcholineの腸管細菌叢による代謝により心血管疾患リスクが上昇することを報告してきました。コリンは腸管細菌叢でトリメチルアミン(TMA)に代謝され、さらに、肝臓でトリメチルアミン-N-oxide(TMAO)に酸化され、動脈硬化を惹起します。TMAOはマクロファージのスキャベンジャー受容体を増加させコレステロール取り込みを促進させます。
L-カルニチンは赤色肉に多く含有されるトリメチルの一種です。L-カルニチンはほ乳類体内でリジンから生成され、脂肪酸のミトコンドリアへの取り込みに際し、必須の役割を果たします。このことから、先進国では脂肪酸酸化促進の目的でサプリメントとしても使用されています。
今回、実験動物およびヒトで、L-カルニチンの腸管細菌叢依存性の代謝を検討しました。TMAO、およびその前駆体であるコリン、L-カルニチンがコレステロール逆転送(RCT)を抑制することを示します。また、ヒト糞便中の細菌叢が食事性カルニチン摂取および血漿TMAO濃度と関連していることを見いだしました。マウスにおいて、慢性的なカルニチン摂取により腸管細菌叢が変化し、TMAO産生能が著明に増加することも示します。
結果:
<腸管細菌叢に依存したカルニチンからのTMAO産生> アイソトープラベルしたカルニチンを226gのサーロインステーキ(カルニチン180mg含有)と共に投与したところ、血中のラベルされたカルニチン、TMAOが上昇しました。ところが、抗生剤を1週間前投与すると、血中のTAMOはほぼ消失し、上記のカルニチン負荷でも血中カルニチンは上昇しましたが、TMAOは上昇しませんでした。その数週後に再度カルニチン負荷を行ったところ、再度TMAOの上昇が認められました。
<菜食主義者での検討> カルニチンン負荷に対するTMAOの反応は個人差があり、食事調査により、赤色肉の摂取が関係していることが示唆されました。そこで、菜食主義者に対しカルニチン負荷を行ったところ、ラベルされたTMAOはほぼ認められませんでした。さらに対象者を増やして検討したところ、菜食者は一般対象者に比し、血中TMAOの基礎値が明らかに低値でした。
<TMAOレベルと腸内細菌叢の関連> 対象者の便中細菌叢の検討から、細菌叢の内Prevotellaに富む対象者がBacteroidesに富む対象者に比し、有意に血中TMAOが高濃度であることが判明しました。また、その他のいくつかの特定の細菌叢もTMAOレベルと関連していることがわかりました。日常の食生活が、食事性カルニチンからTMAおよびTMAOの産生に関連する腸内細菌叢と関連していると考えられます。
<食事性カルニチンからのTMAO産生能は誘導できる> 無菌マウスではカルニチン負荷後も血中にTMA、TMAOは認められませんが、数週間、通常に飼育すると、TMA、TMAO産生能を獲得します。また、非無菌のApoe-/-マウスに抗生剤を投与すると血中TMA、TMAO産生能が消失します。これらから、マウスにおいてもTMA、TMAO産生に腸内細菌叢が必須であることが分かりました。また、非無菌のApoe-/-マウスにカルニチンを負荷すると血中のカルニチンがかえって低下し、TMA、TMAOが増加しました。
<血中TMA、TMAOと腸管細菌叢の種類> マウスの腸管細菌叢のうちいくつかの細菌がカルニチン摂取量および血中TMAOと関連していることが見いだされました。
<血中カルニチン濃度と心血管疾患> 横断研究で、血中カルニチン濃度と冠状動脈病変、末梢動脈病変、総心血管病変には古典的リスク因子の影響とは独立した有意な関連が認められました(2,592名)。前向き観察研究でも血中カルニチン濃度と3年間の主要心血管イベントの間に古典的リスク因子の影響とは独立した有意な関連が認められました。しかし、この関連は血中TMAO濃度で調整すると消失しました。
<食事性カルニチンは腸管細菌叢依存性に動脈硬化を促進する> Apoe-/-マウスにカルニチンを負荷すると大動脈動脈硬化が促進されましたが、抗生剤を投与しておくとカルニチン負荷による血中TMA、TMAOの上昇および動脈硬化促進効果が著明に抑制されました。なお、抗生剤投与により血中カルニチン自体は上昇しました。なお、カルニチン負荷による動脈硬化は血中脂質、血糖、インスリンの変化および肝臓の脂肪化を伴わないものでした。
<TMAOによるコレステロール逆転送の抑制> 最近、われわれはTMAOがマクロファージのスカベンジャー受容体を増加させマクロファージへのコレステロール蓄積を促進させることを報告しました。in vitroでTMAOはマクロファージにおいてコレステロール合成に関わる遺伝子、LDL受容体遺伝子、および、炎症性遺伝子の発現には影響しませんでした。
末梢マクロファージからのコレステロール除去に対して、in vivoでカルニチンおよびコリン負荷が抑制効果を示しました。しかし、抗生剤を投与しておくとこのコレステロール逆転送(RCT)抑制効果は消失しました。直接TMAOを投与してもRCTが35%抑制されました。
<TMAOはin vivoでステロール代謝に影響する> TMAO投与により、胆汁酸合成に関わる遺伝子発現が低下しました。TMAOはコレステロール排泄系の主要要素である胆汁酸合成に影響するものと考えられました。また、TMAOは腸管でのコレステロールの吸収を阻害します。
考察: 赤色肉摂取と心血管の関連において、今回示された肉に多く含まれるカルニチンやコリンが腸内細菌で代謝されTMAOに変化し、動脈硬化を惹起する可能性が示唆されました。
Robert A Koeth, Zeneng Wang, Bruce S Levison, Jennifer A Buffa, Elin Org, Brendan T Sheehy, Earl B Britt, Xiaoming Fu, Yuping Wu, Lin Li, Jonathan D Smith, Joseph A DiDonato, Jun Chen, Hongzhe Li, Gary D Wu, James D Lewis, Manya Warrier, J Mark Brown, Ronald M Krauss,
W H Wilson Tang, Frederic D Bushman, Aldons J Lusis & Stanley L Hazen
Nature Medicine advance online publication 7 April 2013

赤色肉は飽和脂肪酸およびコレステロールを多く含有し、先進国における赤色肉の高摂取は心血管疾患のリスクと関連しています。しかし、最近の前向きコホート研究のメタ解析では、飽和脂肪酸摂取量と心血管疾患の間には関連は認められませんでした。また、コレステロール含量も赤色肉摂取による心血管疾患のリスク上昇を説明できるほどのものではありません。
腸管細菌叢は腸管内の状態、免疫機能、栄養素およびビタミンの活性化さらには、肥満やインスリン抵抗性とも関連していることが示されてきました。著者らは食事性のコリンおよびphosphatidylcholineの腸管細菌叢による代謝により心血管疾患リスクが上昇することを報告してきました。コリンは腸管細菌叢でトリメチルアミン(TMA)に代謝され、さらに、肝臓でトリメチルアミン-N-oxide(TMAO)に酸化され、動脈硬化を惹起します。TMAOはマクロファージのスキャベンジャー受容体を増加させコレステロール取り込みを促進させます。
L-カルニチンは赤色肉に多く含有されるトリメチルの一種です。L-カルニチンはほ乳類体内でリジンから生成され、脂肪酸のミトコンドリアへの取り込みに際し、必須の役割を果たします。このことから、先進国では脂肪酸酸化促進の目的でサプリメントとしても使用されています。
今回、実験動物およびヒトで、L-カルニチンの腸管細菌叢依存性の代謝を検討しました。TMAO、およびその前駆体であるコリン、L-カルニチンがコレステロール逆転送(RCT)を抑制することを示します。また、ヒト糞便中の細菌叢が食事性カルニチン摂取および血漿TMAO濃度と関連していることを見いだしました。マウスにおいて、慢性的なカルニチン摂取により腸管細菌叢が変化し、TMAO産生能が著明に増加することも示します。
結果:
<腸管細菌叢に依存したカルニチンからのTMAO産生> アイソトープラベルしたカルニチンを226gのサーロインステーキ(カルニチン180mg含有)と共に投与したところ、血中のラベルされたカルニチン、TMAOが上昇しました。ところが、抗生剤を1週間前投与すると、血中のTAMOはほぼ消失し、上記のカルニチン負荷でも血中カルニチンは上昇しましたが、TMAOは上昇しませんでした。その数週後に再度カルニチン負荷を行ったところ、再度TMAOの上昇が認められました。
<菜食主義者での検討> カルニチンン負荷に対するTMAOの反応は個人差があり、食事調査により、赤色肉の摂取が関係していることが示唆されました。そこで、菜食主義者に対しカルニチン負荷を行ったところ、ラベルされたTMAOはほぼ認められませんでした。さらに対象者を増やして検討したところ、菜食者は一般対象者に比し、血中TMAOの基礎値が明らかに低値でした。
<TMAOレベルと腸内細菌叢の関連> 対象者の便中細菌叢の検討から、細菌叢の内Prevotellaに富む対象者がBacteroidesに富む対象者に比し、有意に血中TMAOが高濃度であることが判明しました。また、その他のいくつかの特定の細菌叢もTMAOレベルと関連していることがわかりました。日常の食生活が、食事性カルニチンからTMAおよびTMAOの産生に関連する腸内細菌叢と関連していると考えられます。
<食事性カルニチンからのTMAO産生能は誘導できる> 無菌マウスではカルニチン負荷後も血中にTMA、TMAOは認められませんが、数週間、通常に飼育すると、TMA、TMAO産生能を獲得します。また、非無菌のApoe-/-マウスに抗生剤を投与すると血中TMA、TMAO産生能が消失します。これらから、マウスにおいてもTMA、TMAO産生に腸内細菌叢が必須であることが分かりました。また、非無菌のApoe-/-マウスにカルニチンを負荷すると血中のカルニチンがかえって低下し、TMA、TMAOが増加しました。
<血中TMA、TMAOと腸管細菌叢の種類> マウスの腸管細菌叢のうちいくつかの細菌がカルニチン摂取量および血中TMAOと関連していることが見いだされました。
<血中カルニチン濃度と心血管疾患> 横断研究で、血中カルニチン濃度と冠状動脈病変、末梢動脈病変、総心血管病変には古典的リスク因子の影響とは独立した有意な関連が認められました(2,592名)。前向き観察研究でも血中カルニチン濃度と3年間の主要心血管イベントの間に古典的リスク因子の影響とは独立した有意な関連が認められました。しかし、この関連は血中TMAO濃度で調整すると消失しました。
<食事性カルニチンは腸管細菌叢依存性に動脈硬化を促進する> Apoe-/-マウスにカルニチンを負荷すると大動脈動脈硬化が促進されましたが、抗生剤を投与しておくとカルニチン負荷による血中TMA、TMAOの上昇および動脈硬化促進効果が著明に抑制されました。なお、抗生剤投与により血中カルニチン自体は上昇しました。なお、カルニチン負荷による動脈硬化は血中脂質、血糖、インスリンの変化および肝臓の脂肪化を伴わないものでした。
<TMAOによるコレステロール逆転送の抑制> 最近、われわれはTMAOがマクロファージのスカベンジャー受容体を増加させマクロファージへのコレステロール蓄積を促進させることを報告しました。in vitroでTMAOはマクロファージにおいてコレステロール合成に関わる遺伝子、LDL受容体遺伝子、および、炎症性遺伝子の発現には影響しませんでした。
末梢マクロファージからのコレステロール除去に対して、in vivoでカルニチンおよびコリン負荷が抑制効果を示しました。しかし、抗生剤を投与しておくとこのコレステロール逆転送(RCT)抑制効果は消失しました。直接TMAOを投与してもRCTが35%抑制されました。
<TMAOはin vivoでステロール代謝に影響する> TMAO投与により、胆汁酸合成に関わる遺伝子発現が低下しました。TMAOはコレステロール排泄系の主要要素である胆汁酸合成に影響するものと考えられました。また、TMAOは腸管でのコレステロールの吸収を阻害します。
考察: 赤色肉摂取と心血管の関連において、今回示された肉に多く含まれるカルニチンやコリンが腸内細菌で代謝されTMAOに変化し、動脈硬化を惹起する可能性が示唆されました。
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by kamikubo_clinic
| 2013-04-30 14:12
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