FetuinAはTLR4の内因性リガンドとして飽和脂肪酸によるインスリン抵抗性を促進する |
Durba Pal, Suman Dasgupta, Rakesh Kundu, Sudipta Maitra, Gobardhan Das, Satinath Mukhopadhyay, Sukanta Ray, Subeer S Majumdar & Samir Bhattacharya
nature medicine advance online publication 29 July 2012; doi:10.1038/nm.2851

飽和脂肪酸(SFA)は脂肪組織においてTLR4(toll-like receptor4)を介し、炎症性サイトカイン産生を促進させることが知られるようになり、SFAによるTLR4と転写因子NF-κBの活性化がインスリン抵抗性の出現に重要な役割を果たしていると考えられています。しかし、SFAはTLR4には直接結合せず、TLR4活性化の機序は不明です。
Fetuin-Aは肝臓で合成され血中に分泌される脂肪酸結合蛋白で、遊離脂肪酸の主要なキャリアーとして血中に数百mg/Lの高濃度存在します。血中Fetuin-A濃度は疫学的にインスリン抵抗性やメタボリックシンドロームと正相関することが示されています(Circulation 2006;113:1760-1767, Diabetes Care 29:468, 2006)。また、Fetuin-Aは脂肪細胞やマクロファージに作用し、炎症性サイトカイン産生を刺激することも示されています。Fetuin-AあるいはTLR4のノックアウトマウスは高脂肪食を与えてもインスリン抵抗性を示さないことも報告されています。
今回、Fetuin-AがTLR4の内因性リガンドとしてSFAのTLR4活性化作用を仲介する役割を果たしていることが報告されました。
抄録: TLR4は炎症性シグナル経路を活性化させ先天的な免疫に関し重要な役割を果たしています。遊離脂肪酸はTLR4経路を介して脂肪組織の炎症を刺激し、結果としてインスリン抵抗性をもたらします。しかし、現時点では遊離脂肪酸は直接的にはTLR4に結合しないと考えられ、TLR4の内因性リガンドは不明です。今回、Fetuin-Aがこの内因性リガンドでありうること、また、マウスにおいてTLR4シグナル経路を介してインスリン感受性の調節に重要な役割を果たしていることを示します。高脂肪食負荷によりインスリン抵抗性に陥ったマウスのFetuin-Aのノックダウンにより脂肪組織でのTLR4を介する炎症性シグナルが減少し、一方、Fetuin-Aの投与は炎症性シグナルとインスリン抵抗性を誘導した。脂肪細胞における遊離脂肪酸による炎症性サイトカインの発現はFetuin-AとTLR4の両者の存在下でのみ認められ、いずれかを取り除くと遊離脂肪酸によるインスリン抵抗性誘導は認められなかった。さらに、Fetuin-Aはその末端のガラクトサイド部分でTLR4のLeu100-Gly123およびThr493-Thr516に結合することを示した。遊離脂肪酸は変異TLR4やガラクトサイドを切断したFetuin-Aの存在下では脂肪細胞のインスリン抵抗性をもたらさなかった。これらの結果、Fetuin-AはTLR4の内因性リガンドとして機能し、脂質によるインスリン抵抗性を仲介するものと考えられた。
解説> この論文では遊離脂肪酸と記されていますが、現在までに検討された限りでは、TLR4の活性化はSFAであるパルミチン酸、ステアリン酸等でもたらされるが、オレイン酸、リノール酸、EPA等の不飽和脂肪酸ではもたらされないことが知られています。今回の論文でもsupplementsとしてNf-κbのプロモータ活性化はSFAであるパルミチン酸、ステアリン酸でもたらされるが、不飽和脂肪酸であるオレイン酸、リノール酸ではもたらされないことが示されています。