2012年 07月 02日
メタボリックシンドローム症例における食物繊維摂取後の筋および脂肪組織でのインスリン感受性改善 |
Insulin-Sensitising Effects on Muscle and Adipose Tissue after Dietary Fiber Intake in Men and Women with Metabolic Syndrome
M. Denise Robertson, John W. Wright, Emmanuelle Loizon, Cyrille Debard, Hubert Vidal, Fariba Shojaee-Moradie, David Russell-Jones, and A. Margot Umpleby
J Clin Endocrin Metab. First published ahead of print June 28, 2012 as doi:10.1210/jc.2012-1513
食物繊維は水溶性と不溶性に分類され、水溶性食物繊維はブドウ糖吸収を遅延させます。一方、難消化性デンプン(resistant starch)などの不溶性食物繊維は腸管からのブドウ糖吸収には直接影響しませんが、短期的に全身的インスリン感受性を亢進させることが知られています。また、不溶性食物繊維は疫学的に2型糖尿病発症率の低値と関連しています。今回の研究グループは、既にトウモロコシ由来の難消化性デンプン(HAM-RS2)が健常者においてインスリン感受性を増大させ、脂肪組織での脂肪分解を抑制することを報告しています。今回はインンスリン抵抗性を有するメタボリックシンドローム症例における検討です。なお、これらの食物繊維の一部は大腸内で微生物による発酵の結果、短鎖脂肪酸となり生体機能に影響する可能性が考えられています。
背景: 疫学的研究により食物繊維の摂取が2型糖尿病発症率の低値と関連していることが報告されているが、そのメカニズムは不明である。
目的: 2型糖尿病発症の高リスク者において、トウモロコシ由来の不溶性食物繊維(HAM-RS2)のインスリン感受性に対する効果および作用部位を明らかにする。
デザイン・設定・対象者: インスリン抵抗性を有する15名の男女。英国。クロスオーバー法による無作為化対照試験。
介入: 1日40gのHAM-RS2あるいはプラセボを投与。
主要評価項目: トレーサーラベルしたブドウ糖を用いた高インスリン・グルコースクランプ法、食事負荷試験、前腕動静脈採血、皮下脂肪組織生検による遺伝子発現の検討。
結果: 空腹時血糖、空腹時インスリン濃度とも有意に低下し、HOMA-IRは10.4±7.5%改善した。体重、HOMA-βおよび内因性ブドウ糖産生には影響しなかった。動静脈採血により、前腕筋でのブドウ糖取り込みの亢進(65±15%増加)が認められた。インスリンの脂肪分解抑制作用が増大し、また、ホルモン感受性リパーゼ(HSL)、ペリリピン、リポ蛋白リパーゼ(LPL)、および、脂肪組織トリグリセライドリパーゼ(ATGL)の各遺伝子発現の有意な増加が認められた。脂肪組織のアディポネクチン遺伝子発現は増加傾向(p=0.053)を示した。血中レプチン、アディポネクチン、ghrelinレベルには影響しなかった。
結論: HAM-RS2は、肝臓ではなく、末梢組織でのインスリン抵抗性を改善させる。
解説> 著者らは、脂肪組織でのHSL、LPL発現の増加は、脂肪細胞の分化誘導を表している可能性を考え、HAM-RS2の発酵により生じたプロピオン酸が脂肪細胞のPPARγを活性化し、その標的遺伝子であるLPLやアディポネクチン遺伝子発現が増加した可能性を考察しています。
今後、更なる分子メカニズムの解明、および、実際の2型糖尿病での治療効果に関する検討が待たれます。
なお、本年1月15日にも紹介しましたが、発酵によって生じた短鎖脂肪酸がGLP-1分泌を促進させることも報告されています。
M. Denise Robertson, John W. Wright, Emmanuelle Loizon, Cyrille Debard, Hubert Vidal, Fariba Shojaee-Moradie, David Russell-Jones, and A. Margot Umpleby
J Clin Endocrin Metab. First published ahead of print June 28, 2012 as doi:10.1210/jc.2012-1513
食物繊維は水溶性と不溶性に分類され、水溶性食物繊維はブドウ糖吸収を遅延させます。一方、難消化性デンプン(resistant starch)などの不溶性食物繊維は腸管からのブドウ糖吸収には直接影響しませんが、短期的に全身的インスリン感受性を亢進させることが知られています。また、不溶性食物繊維は疫学的に2型糖尿病発症率の低値と関連しています。今回の研究グループは、既にトウモロコシ由来の難消化性デンプン(HAM-RS2)が健常者においてインスリン感受性を増大させ、脂肪組織での脂肪分解を抑制することを報告しています。今回はインンスリン抵抗性を有するメタボリックシンドローム症例における検討です。なお、これらの食物繊維の一部は大腸内で微生物による発酵の結果、短鎖脂肪酸となり生体機能に影響する可能性が考えられています。
背景: 疫学的研究により食物繊維の摂取が2型糖尿病発症率の低値と関連していることが報告されているが、そのメカニズムは不明である。
目的: 2型糖尿病発症の高リスク者において、トウモロコシ由来の不溶性食物繊維(HAM-RS2)のインスリン感受性に対する効果および作用部位を明らかにする。
デザイン・設定・対象者: インスリン抵抗性を有する15名の男女。英国。クロスオーバー法による無作為化対照試験。
介入: 1日40gのHAM-RS2あるいはプラセボを投与。
主要評価項目: トレーサーラベルしたブドウ糖を用いた高インスリン・グルコースクランプ法、食事負荷試験、前腕動静脈採血、皮下脂肪組織生検による遺伝子発現の検討。
結果: 空腹時血糖、空腹時インスリン濃度とも有意に低下し、HOMA-IRは10.4±7.5%改善した。体重、HOMA-βおよび内因性ブドウ糖産生には影響しなかった。動静脈採血により、前腕筋でのブドウ糖取り込みの亢進(65±15%増加)が認められた。インスリンの脂肪分解抑制作用が増大し、また、ホルモン感受性リパーゼ(HSL)、ペリリピン、リポ蛋白リパーゼ(LPL)、および、脂肪組織トリグリセライドリパーゼ(ATGL)の各遺伝子発現の有意な増加が認められた。脂肪組織のアディポネクチン遺伝子発現は増加傾向(p=0.053)を示した。血中レプチン、アディポネクチン、ghrelinレベルには影響しなかった。
結論: HAM-RS2は、肝臓ではなく、末梢組織でのインスリン抵抗性を改善させる。
解説> 著者らは、脂肪組織でのHSL、LPL発現の増加は、脂肪細胞の分化誘導を表している可能性を考え、HAM-RS2の発酵により生じたプロピオン酸が脂肪細胞のPPARγを活性化し、その標的遺伝子であるLPLやアディポネクチン遺伝子発現が増加した可能性を考察しています。
今後、更なる分子メカニズムの解明、および、実際の2型糖尿病での治療効果に関する検討が待たれます。
なお、本年1月15日にも紹介しましたが、発酵によって生じた短鎖脂肪酸がGLP-1分泌を促進させることも報告されています。
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by kamikubo_clinic
| 2012-07-02 20:50
| 炭水化物