2012年 02月 24日
果糖はβ細胞の甘味受容体を介しブドウ糖によるインスリン分泌を増強する |
Sweet taste receptor signaling in beta cells mediates fructose-induced potentiation of glucose-stimulated insulin secretion
George A. Kyriazis, Mangala M. Soundarapandian, and Björn Tyrberg
PNAS 2012 109 (8) E524–E532
食後の血糖上昇がインスリン分泌の主要刺激因子です。インスリンは末梢組織でのブドウ糖利用を促進させ、血糖を食前のレベルにまで低下させます。ブドウ糖以外にも様々なインスリン分泌刺激物質が見いだされており、ブドウ糖と共にインスリン分泌の微細な調節に関与していると考えられます。たとえば、ある種のアミノ酸はβ細胞内で代謝されインスリン分泌を刺激します。また、GLP-1などのインスリン分泌調節因子は細胞表面のG蛋白共役受容体に作用することでインスリン分泌につながる細胞内情報伝達系を活性化します。主要な食事性単糖である果糖やサッカリンなどの人工甘味料は、β細胞内ではほとんど代謝されませんが、生理的なブドウ糖の存在下でインスリン分泌を促進させます。したがって、これら甘味物質がβ細胞表面の特異的受容体にアゴニストとして作用する可能性が考えられます。
舌における甘味はG蛋白共役受容体ファミリーであるT1R2-T1R3ヘテロダイマーで感知されます。味覚受容体は肺気道上皮、腸の内分泌細胞、またマウスの膵ランゲルハンス島などにも存在しています。果糖が自然糖類の中で最も甘い物質であることを考えると、食後の果糖がβ細胞の甘味受容体に作用することでインスリン分泌を促進させる可能性も考えられます。今回、われわれはマウスおよびヒトのランゲルハンス島に甘味受容体が存在すること、T1R2サブユニットが食事性果糖によるインスリン分泌増強に必要であることを示します。果糖による初期シグナリングはブドウ糖と無関係ですが、後のステップではブドウ糖代謝に合流し、カルシウム流入、インスリン分泌をもたらします。
抄録: 食後のインスリン分泌はブドウ糖によって調節されていますが、他の栄養素もβ細胞に作用しブドウ糖とは異なるシグナリング経路によりブドウ糖に刺激されたインスリン分泌を増強する可能性が考えられる。今回、ヒトおよびマウスにおいて、果糖がβ細胞の甘味受容体を活性化し、ブドウ糖と共に作用することで、インスリン分泌を増強させることを示す。甘味受容体サブユニットであるT1R21欠損マウスでは果糖によるインスリン分泌およびブドウ糖によるインスリン分泌増強作用がin vitro、in vivo 共に認められない。β細胞における味覚受容体シグナリングはブドウ糖代謝経路と平衡して活性化され、phospholipase Cおよびtransient receptor potential cation channel subfamily M member5の活性化による細胞内Caの上昇をもたらす。今回の研究で食後の栄養素による味覚受容体を介するインスリン分泌調節経路が明らかとなった。
解説> 舌の味覚受容体は様々なサブユニットの組み合わせにより甘味、苦味、うまみを認識します。これらサブユニットはいずれもG蛋白共役型受容体であることが知られています。ヒトにおいても、甘味受容体(T1R2-T1R3)がGLP-1およびpeptideYYの分泌に関与していることが示唆されています(Am J Physiol Endocrinol Metab 2011 301:(2) E317-E325)(総説 Diabetes Metab J 2011;35:451-457)。今回の論文では果糖がβ細胞表面の甘味受容体に作用し、ブドウ糖によるインスリン分泌に対し促進的に作用することが示されました。なお、T1R2欠損マウスでもブドウ糖負荷試験では耐糖能が正常マウスと変わらないことが示されており、ブドウ糖によるインスリン分泌刺激においては、やはり、ブドウ糖がβ細胞内で代謝されインスリン分泌を促進させる経路が最も重要であることも示されています。果糖の過剰摂取がインスリン抵抗性、メタボリックシンドロームを引き起こす可能性が唱えられていますが、今回の知見が一般にいわれているこれら果糖の悪影響とどのように関連しているかに興味が持たれます。

George A. Kyriazis, Mangala M. Soundarapandian, and Björn Tyrberg
PNAS 2012 109 (8) E524–E532
食後の血糖上昇がインスリン分泌の主要刺激因子です。インスリンは末梢組織でのブドウ糖利用を促進させ、血糖を食前のレベルにまで低下させます。ブドウ糖以外にも様々なインスリン分泌刺激物質が見いだされており、ブドウ糖と共にインスリン分泌の微細な調節に関与していると考えられます。たとえば、ある種のアミノ酸はβ細胞内で代謝されインスリン分泌を刺激します。また、GLP-1などのインスリン分泌調節因子は細胞表面のG蛋白共役受容体に作用することでインスリン分泌につながる細胞内情報伝達系を活性化します。主要な食事性単糖である果糖やサッカリンなどの人工甘味料は、β細胞内ではほとんど代謝されませんが、生理的なブドウ糖の存在下でインスリン分泌を促進させます。したがって、これら甘味物質がβ細胞表面の特異的受容体にアゴニストとして作用する可能性が考えられます。
舌における甘味はG蛋白共役受容体ファミリーであるT1R2-T1R3ヘテロダイマーで感知されます。味覚受容体は肺気道上皮、腸の内分泌細胞、またマウスの膵ランゲルハンス島などにも存在しています。果糖が自然糖類の中で最も甘い物質であることを考えると、食後の果糖がβ細胞の甘味受容体に作用することでインスリン分泌を促進させる可能性も考えられます。今回、われわれはマウスおよびヒトのランゲルハンス島に甘味受容体が存在すること、T1R2サブユニットが食事性果糖によるインスリン分泌増強に必要であることを示します。果糖による初期シグナリングはブドウ糖と無関係ですが、後のステップではブドウ糖代謝に合流し、カルシウム流入、インスリン分泌をもたらします。
抄録: 食後のインスリン分泌はブドウ糖によって調節されていますが、他の栄養素もβ細胞に作用しブドウ糖とは異なるシグナリング経路によりブドウ糖に刺激されたインスリン分泌を増強する可能性が考えられる。今回、ヒトおよびマウスにおいて、果糖がβ細胞の甘味受容体を活性化し、ブドウ糖と共に作用することで、インスリン分泌を増強させることを示す。甘味受容体サブユニットであるT1R21欠損マウスでは果糖によるインスリン分泌およびブドウ糖によるインスリン分泌増強作用がin vitro、in vivo 共に認められない。β細胞における味覚受容体シグナリングはブドウ糖代謝経路と平衡して活性化され、phospholipase Cおよびtransient receptor potential cation channel subfamily M member5の活性化による細胞内Caの上昇をもたらす。今回の研究で食後の栄養素による味覚受容体を介するインスリン分泌調節経路が明らかとなった。
解説> 舌の味覚受容体は様々なサブユニットの組み合わせにより甘味、苦味、うまみを認識します。これらサブユニットはいずれもG蛋白共役型受容体であることが知られています。ヒトにおいても、甘味受容体(T1R2-T1R3)がGLP-1およびpeptideYYの分泌に関与していることが示唆されています(Am J Physiol Endocrinol Metab 2011 301:(2) E317-E325)(総説 Diabetes Metab J 2011;35:451-457)。今回の論文では果糖がβ細胞表面の甘味受容体に作用し、ブドウ糖によるインスリン分泌に対し促進的に作用することが示されました。なお、T1R2欠損マウスでもブドウ糖負荷試験では耐糖能が正常マウスと変わらないことが示されており、ブドウ糖によるインスリン分泌刺激においては、やはり、ブドウ糖がβ細胞内で代謝されインスリン分泌を促進させる経路が最も重要であることも示されています。果糖の過剰摂取がインスリン抵抗性、メタボリックシンドロームを引き起こす可能性が唱えられていますが、今回の知見が一般にいわれているこれら果糖の悪影響とどのように関連しているかに興味が持たれます。
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by kamikubo_clinic
| 2012-02-24 13:42
| 炭水化物