2013年 04月 30日
腸内細菌によるホスファチジルコリンの代謝と心血管リスク |
Intestinal Microbial Metabolism of Phosphatidylcholine and Cardiovascular Risk
W.H. Wilson Tang, M.D., Zeneng Wang, Ph.D., Bruce S. Levison, Ph.D., Robert A. Koeth, B.S., Earl B. Britt, M.D.,
Xiaoming Fu, M.S., Yuping Wu, Ph.D., and Stanley L. Hazen, M.D., Ph.D.
N Engl J Med 2013;368:1575-84
Nature Medicineに食事性カルニチンから、腸管細菌によりTMA、TMAOが産生され、動脈硬化を惹起することを報告したグループから、phosphatidylcholine(ホスファチジルコリン)に含まれるコリンが腸内細菌によって代謝されTMAとなり、さらに、肝臓でTMAOに変化し動脈硬化のリスクになるとの報告がなされました。
背景: 動物において、食事性phosphatidylcholineのコリンの腸管細菌による代謝によりtrimethylamine-N-oxide (TMAO)が生成され、このTMAOが冠動脈疾患の原因のひとつとして作用することを示してきました(Nature 2011;472:57-63)。今回、ヒトにおいて、食事性phosphatidylcholineの腸管細菌による代謝と、血中TMAOレベル、および、心血管疾患の発症の関連に関し検討を加えました。
方法: 健常者において、抗生剤経口投与の前処置の有無別に、phosphatidylcholine負荷(2個のゆで卵+deuteriumラベルされたphosphatidylcholine)の前後で、血漿中および尿中TMAO、血漿中コリンおよびベタミンを測定した。また、空腹時血漿TMAOレベルと心血管疾患発症(死、心筋梗塞、脳卒中)の関連を4007名の冠動脈造影検査受診者において3年間検討した。
結果: phosphatidylcholine負荷後、時間と共にTMAOおよびラベルされたTMAOは増加した。抗生剤投与により血漿TMAOは著明に低下し、抗生剤の中止後、再度上昇した。血漿TMAOの高値は主要心血管イベントと有意に関連していた(最低4分位に比し、最高4分位のリスクは2.54(95%CL 1.96-3.28; P<0.001)。古典的リスク因子で補正後も、関連は有意(P<0.001)であり、また、古典的リスク因子において低リスクのサブグループにおいても有意であった。
結論: 食事性phosphatidylcholineからのTMAO産生は腸管細菌叢に依存している。TMAOの高値は主要心血管イベントの高リスクと関連している。
解説> phosphatidylcholineはレシチンとも呼ばれ、卵黄、レバー、肉などに含有され、細胞膜の構成成分です。過剰に摂取すると、腸内細菌による代謝を受け、動脈硬化を促進するTMAOに変化するという報告です。
N Engl J Medの同じ号に、この論文に対するコメントが掲載されています。それによると、TMAを酸化しTMAOに変化させる酵素にはFMO1とFMO3の2種類あり、後者が10倍程度活性が高く、また、胆汁酸により誘導されるとのことです。論文中にも記されていますが、TMAOは海洋魚類において浸透圧維持に機能しています。また、高い水圧や尿素による変性を防ぐchaperoneとして蛋白質構造の維持にも機能しているようです。また、TMAOはglutathioneなどのチオール含有物を消費する酸化物質としての側面も有しています。この観点から、TMAOがLDLの酸化を促進する可能性も指摘されています。
最近、腸内細菌は、肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病の発症との関連で注目を集めています(Nature 2012;489:242-9)。今回、腸内細菌と動脈硬化との関連が示され、食物などによる腸内細菌叢の変化を動脈硬化の予防に応用できる可能性も考えられます。
W.H. Wilson Tang, M.D., Zeneng Wang, Ph.D., Bruce S. Levison, Ph.D., Robert A. Koeth, B.S., Earl B. Britt, M.D.,
Xiaoming Fu, M.S., Yuping Wu, Ph.D., and Stanley L. Hazen, M.D., Ph.D.
N Engl J Med 2013;368:1575-84
Nature Medicineに食事性カルニチンから、腸管細菌によりTMA、TMAOが産生され、動脈硬化を惹起することを報告したグループから、phosphatidylcholine(ホスファチジルコリン)に含まれるコリンが腸内細菌によって代謝されTMAとなり、さらに、肝臓でTMAOに変化し動脈硬化のリスクになるとの報告がなされました。
背景: 動物において、食事性phosphatidylcholineのコリンの腸管細菌による代謝によりtrimethylamine-N-oxide (TMAO)が生成され、このTMAOが冠動脈疾患の原因のひとつとして作用することを示してきました(Nature 2011;472:57-63)。今回、ヒトにおいて、食事性phosphatidylcholineの腸管細菌による代謝と、血中TMAOレベル、および、心血管疾患の発症の関連に関し検討を加えました。
方法: 健常者において、抗生剤経口投与の前処置の有無別に、phosphatidylcholine負荷(2個のゆで卵+deuteriumラベルされたphosphatidylcholine)の前後で、血漿中および尿中TMAO、血漿中コリンおよびベタミンを測定した。また、空腹時血漿TMAOレベルと心血管疾患発症(死、心筋梗塞、脳卒中)の関連を4007名の冠動脈造影検査受診者において3年間検討した。
結果: phosphatidylcholine負荷後、時間と共にTMAOおよびラベルされたTMAOは増加した。抗生剤投与により血漿TMAOは著明に低下し、抗生剤の中止後、再度上昇した。血漿TMAOの高値は主要心血管イベントと有意に関連していた(最低4分位に比し、最高4分位のリスクは2.54(95%CL 1.96-3.28; P<0.001)。古典的リスク因子で補正後も、関連は有意(P<0.001)であり、また、古典的リスク因子において低リスクのサブグループにおいても有意であった。
結論: 食事性phosphatidylcholineからのTMAO産生は腸管細菌叢に依存している。TMAOの高値は主要心血管イベントの高リスクと関連している。
解説> phosphatidylcholineはレシチンとも呼ばれ、卵黄、レバー、肉などに含有され、細胞膜の構成成分です。過剰に摂取すると、腸内細菌による代謝を受け、動脈硬化を促進するTMAOに変化するという報告です。
N Engl J Medの同じ号に、この論文に対するコメントが掲載されています。それによると、TMAを酸化しTMAOに変化させる酵素にはFMO1とFMO3の2種類あり、後者が10倍程度活性が高く、また、胆汁酸により誘導されるとのことです。論文中にも記されていますが、TMAOは海洋魚類において浸透圧維持に機能しています。また、高い水圧や尿素による変性を防ぐchaperoneとして蛋白質構造の維持にも機能しているようです。また、TMAOはglutathioneなどのチオール含有物を消費する酸化物質としての側面も有しています。この観点から、TMAOがLDLの酸化を促進する可能性も指摘されています。
最近、腸内細菌は、肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病の発症との関連で注目を集めています(Nature 2012;489:242-9)。今回、腸内細菌と動脈硬化との関連が示され、食物などによる腸内細菌叢の変化を動脈硬化の予防に応用できる可能性も考えられます。
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by kamikubo_clinic
| 2013-04-30 19:47