2012年 06月 28日
低炭水化物高蛋白質食と心血管病発症率 -Sweden女性における前向きコホート研究- |
Low carbohydrate-high protein diet and incidence of cardiovascular diseases in Swedish women: prospective cohort study
Pagona Lagiou, Sven Sandin, Marie Lof, Dimitrios Trichopoulos
, Hans-Olov Adami, Elisabete Weiderpass
BMJ 2012;344:e4026 doi: 10.1136/bmj.e4026 (Published 26 June 2012)
肥満解消のための食事療法には様々なものがありますが、欧米で最もポピュラーなものとして低炭水化物食が挙げられます。一般的に、西洋社会では著しい高脂肪食は嫌われますので、低炭水化物食は結果的に高蛋白質食となってしまいます。低炭水化物高蛋白質食は短期的には減量に有用であるかもしれませんが、心血管疾患の観点から疑問視されてもいます。この食事療法は、蛋白質源として植物性蛋白を利用し、減量する炭水化物も単純な精製糖質とすれば、栄養学的に受容されるものですが、一般大衆は必ずしもこの点を理解せず、また、実行しないかもしれません。
過去数年間に低炭水化物高蛋白質食に関しいくつかのコホート研究が発表されました。米国のNurses' Health Studyでは、低炭水化物高蛋白質食は虚血性心疾患の増加とは関連していないと報告されました(N Engl J Med 2006;355:1991-2002)。しかし、欧州での小規模な3つの研究では低炭水化物高蛋白質食が心血管死亡率の高値と関連していることが報告されました。この不一致の原因として、蛋白質源(動物性か植物性か)の相違や肥満者の頻度の相違が挙げられています。このトピックスの、特に女性における、重要性に鑑み、今回の研究が発表されました。
目的: 低炭水化物食、一般的に高蛋白質食となりますが、の心血管疾患発症率に対する長期的影響を検討する。
デザイン・設定: Sweden、Uppsalaでの前向きコホート研究
参加者: 一般住民から無作為に抽出された43396名の女性、30-49歳、平均15.7年間経過観察。
主要評価項目: 心血管疾患の全発症率、および各疾患(全国的登録により確認)、と炭水化物摂取量、蛋白質摂取量、および、両者の組み合わせとの関連を、エネルギー量、飽和・不飽和脂肪酸摂取量、および、食事以外の危険因子で補正して検討した。
結果: 少ない炭水化物摂取量、多い蛋白質摂取量、および、低炭水化物高蛋白質摂取スコアはいずれも統計学的に有意に全心疾患発症率、虚血性心疾患、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、くも膜下出血、末梢血管疾患と関連していた。
結論: 炭水化物および蛋白質の質を考慮しない日常的な低炭水化物高蛋白質食は心血管疾患発症のリスクと関連している。
解説> この研究では、1日の炭水化物摂取量が20g減少し、蛋白質摂取量が5g増加すると、全心血管疾患発症のリスクがおよそ5%増加すると計算されています。蛋白質源に関しては、動物性と植物性で比較すると、クモ膜下出血は動物性蛋白質を多く摂取する女性において有意に発症率が高く(P=0.04)、他の心血管疾患でも植物性蛋白質に比し動物性蛋白質を多く摂取する女性で発症率が高い傾向があったが統計学的には有意差を認めなかったとされています。
この論文でも考察されていますが、米国でのいくつかの研究では、蛋白質や脂質源として動物性か植物性かにより低炭水化物高蛋白質の影響が異なり、植物性蛋白質・脂質を多く摂取すると、炭水化物摂取が少ないほど心血管疾患発症率が低下すると報告されています(Ann Intern Med 2010;153:289-98、Am J Clin Nutr 2010;91:39-45、Am J Clin Nutr 2010;92:1265-72)。また、蛋白質や炭水化物の処理・調理方法によっても結果が異なる可能性も否定できません。いくつかのメタ解析により、炭水化物でも、野菜、果物(欧米では多くの場合、皮つきで摂取される)、豆類などは健康に有用な食品とされています。また、同様にメタ解析で、獣肉に関しても、未加工肉に比し加工肉の心血管疾患や糖尿病発症に対する悪影響が大きいことが示されています。また、日本人の目からは、飽和・不飽和脂肪酸で補正されているとはいえ、魚と獣肉が同じ動物性蛋白質として扱われることに違和感を覚えます。
この研究の欠点としては、著者らは食事調査が追跡の開始時点にのみ行なわれたことを挙げています。他には、食塩やトランス脂肪酸について補正されていないことも問題点ではないかと考えられます。
なお、この研究は一般住民を対象としたものであり、糖質摂取により異常に血糖が上昇する糖尿病患者のみを対象としたものではありません。
Pagona Lagiou, Sven Sandin, Marie Lof, Dimitrios Trichopoulos
, Hans-Olov Adami, Elisabete Weiderpass
BMJ 2012;344:e4026 doi: 10.1136/bmj.e4026 (Published 26 June 2012)
肥満解消のための食事療法には様々なものがありますが、欧米で最もポピュラーなものとして低炭水化物食が挙げられます。一般的に、西洋社会では著しい高脂肪食は嫌われますので、低炭水化物食は結果的に高蛋白質食となってしまいます。低炭水化物高蛋白質食は短期的には減量に有用であるかもしれませんが、心血管疾患の観点から疑問視されてもいます。この食事療法は、蛋白質源として植物性蛋白を利用し、減量する炭水化物も単純な精製糖質とすれば、栄養学的に受容されるものですが、一般大衆は必ずしもこの点を理解せず、また、実行しないかもしれません。
過去数年間に低炭水化物高蛋白質食に関しいくつかのコホート研究が発表されました。米国のNurses' Health Studyでは、低炭水化物高蛋白質食は虚血性心疾患の増加とは関連していないと報告されました(N Engl J Med 2006;355:1991-2002)。しかし、欧州での小規模な3つの研究では低炭水化物高蛋白質食が心血管死亡率の高値と関連していることが報告されました。この不一致の原因として、蛋白質源(動物性か植物性か)の相違や肥満者の頻度の相違が挙げられています。このトピックスの、特に女性における、重要性に鑑み、今回の研究が発表されました。
目的: 低炭水化物食、一般的に高蛋白質食となりますが、の心血管疾患発症率に対する長期的影響を検討する。
デザイン・設定: Sweden、Uppsalaでの前向きコホート研究
参加者: 一般住民から無作為に抽出された43396名の女性、30-49歳、平均15.7年間経過観察。
主要評価項目: 心血管疾患の全発症率、および各疾患(全国的登録により確認)、と炭水化物摂取量、蛋白質摂取量、および、両者の組み合わせとの関連を、エネルギー量、飽和・不飽和脂肪酸摂取量、および、食事以外の危険因子で補正して検討した。
結果: 少ない炭水化物摂取量、多い蛋白質摂取量、および、低炭水化物高蛋白質摂取スコアはいずれも統計学的に有意に全心疾患発症率、虚血性心疾患、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、くも膜下出血、末梢血管疾患と関連していた。
結論: 炭水化物および蛋白質の質を考慮しない日常的な低炭水化物高蛋白質食は心血管疾患発症のリスクと関連している。
解説> この研究では、1日の炭水化物摂取量が20g減少し、蛋白質摂取量が5g増加すると、全心血管疾患発症のリスクがおよそ5%増加すると計算されています。蛋白質源に関しては、動物性と植物性で比較すると、クモ膜下出血は動物性蛋白質を多く摂取する女性において有意に発症率が高く(P=0.04)、他の心血管疾患でも植物性蛋白質に比し動物性蛋白質を多く摂取する女性で発症率が高い傾向があったが統計学的には有意差を認めなかったとされています。
この論文でも考察されていますが、米国でのいくつかの研究では、蛋白質や脂質源として動物性か植物性かにより低炭水化物高蛋白質の影響が異なり、植物性蛋白質・脂質を多く摂取すると、炭水化物摂取が少ないほど心血管疾患発症率が低下すると報告されています(Ann Intern Med 2010;153:289-98、Am J Clin Nutr 2010;91:39-45、Am J Clin Nutr 2010;92:1265-72)。また、蛋白質や炭水化物の処理・調理方法によっても結果が異なる可能性も否定できません。いくつかのメタ解析により、炭水化物でも、野菜、果物(欧米では多くの場合、皮つきで摂取される)、豆類などは健康に有用な食品とされています。また、同様にメタ解析で、獣肉に関しても、未加工肉に比し加工肉の心血管疾患や糖尿病発症に対する悪影響が大きいことが示されています。また、日本人の目からは、飽和・不飽和脂肪酸で補正されているとはいえ、魚と獣肉が同じ動物性蛋白質として扱われることに違和感を覚えます。
この研究の欠点としては、著者らは食事調査が追跡の開始時点にのみ行なわれたことを挙げています。他には、食塩やトランス脂肪酸について補正されていないことも問題点ではないかと考えられます。
なお、この研究は一般住民を対象としたものであり、糖質摂取により異常に血糖が上昇する糖尿病患者のみを対象としたものではありません。
by kamikubo_clinic
| 2012-06-28 22:30
| 炭水化物