2012年 05月 15日
食餌性肥満ラットにおける栄養素反応の低下:腸管ペプチドおよび栄養素受容体の役割 |
Decreased itestinal nutrient response in diet-induced obese rats: role of gut peptides and ntrient receptors
FA Duca, TD Swartz, Y Sakar and M Covsa
Internat J Obesity advance online publication, 1 May 2012; doi:10.1038/ijo.2012.45
肥満は環境因子(食事)と遺伝因子の相互作用によりもたらされると考えられます。したがって、多遺伝子的な食餌誘発肥満(diet-induced obesity, DIO)の動物モデルはヒトの肥満を反映する優れたモデルと考えられます。高エネルギー高脂肪食にさらされるとラットの一部は肥満となりますが、肥満をきたさないラットも認められます(DIO resistant, DR)。DIOではエネルギー摂取とエネルギー効率の上昇が認められ、末梢代謝、中枢神経機能、報酬行動、腸管シグナルなどの異常が原因と考えられています。動物モデルでは肥満とともに腸管内の栄養素に対する反応性低下が認められるとの報告があり、食後の栄養素、あるいは高脂肪食からの抑制的なフィードバックが十分に機能しないことがDIOラットにおける過食や体重増加に寄与している可能性も考えられます。
脂肪はcholecystokinin(CCK)やglucagon-like peptide-1(GLP-1)分泌を強力に促進し、慢性的な高脂肪食摂取によりヒトにおいて血中CCKが増加します。しかし、高脂肪食で飼育した動物では、血中peptide YY(PYY)やGLP-1が低下し、外因性に投与したCCKおよびGLP-1に対する反応性が低下していると報告されています。さらに、肥満者では非肥満者に比し食後の血中CCK、GLP-1、PYYが低下しているとの報告もありますが、必ずしも知見は一致していません。一方、胃バイパス手術後の体重減少では、これらのペプチド濃度の上昇を認めます。DIOラットにおいて消化管栄養素に対する反応性に関しては報告がありません。
腸管内分泌細胞の管腔側にはG蛋白共役型受容体(GPR)が存在し、ペプチド分泌の調節に関与していると考えられています。たとえば、GPR40およびGPR120は中鎖および長鎖脂肪酸により活性化され、CCKおよびGLP-1分泌を促進させます。一方、PYY分泌細胞に存在するGPR41は短鎖脂肪酸により活性化されPYY分泌を促進させます。このようなことから、著者らはDIOラットにおいて高エネルギー高脂肪食負荷および結果として出現する肥満により、これらの受容体や腸管ペプタイド分泌に変化がもたらされる可能性を考えました。
食物摂取、エネルギーバランスを調節する消化管シグナルは迷走神経求心路を介して統合されます。たとえば、CCK-1受容体およびレプチン受容体は迷走神経求心路に存在し、これらの変異は過食と肥満をもたらします。さらに、高脂肪食負荷や肥満はCCKに対する迷走神経の感受性低下やレプチン抵抗性を伴っていることが報告されています。今回、高エネルギー高脂肪食を投与したDIOラットにおいて、胃内への栄養素投与に対する摂食行動変化、腸管ペプチドの遺伝子発現および蛋白量、さらに腸管上皮でのGPRまた神経節での食欲抑制ペプチド受容体の発現が検討されました。
背景・目的: 食餌性肥満(DIO)は遺伝的および環境的(食事)因子の相互作用によるヒト肥満の優れたモデルである。このモデルでの過食には末梢での満腹シグナルに対する反応性低下が原因となっている可能性がある。本研究では高エネルギー高脂肪食を投与したDIOラットおよびDRラットにおいて栄養素を投与した際の満腹反応(摂食量減少)および腸管の満腹(食欲抑制)ペプチド含量、腸管の栄養素受容体、および迷走神経摂食抑制受容体発現を検討した。
方法: 非近交系ラットに高エネルギー高脂肪食を負荷し、各個体の体重増加の程度により全体を3分し、上位3分の1をDIO、下位3分の1をDRとした。DIOおよびDRラットにブドウ糖あるいは脂肪(イントラリピッド)を胃管で投与し、その後の摂食量を検討した。近位腸管上皮の満腹ペプチドおよび脂肪酸受容体の遺伝子発現および蛋白量を検討した。合わせて、節状神経節におけるCCK-1受容体およびレプチン受容体mRNAを検討した。
結果: DRラットに比し、DIOラットにおいてイントラリピッド投与後の摂食抑制反応は低下していたが、ブドウ糖投与後の摂食量低下には有意差を認めなかった。DIOラットではDRラットに比し、腸管CCK、PYY、GLP-1含量が低下していた。DIOラットではGPR40、GPR41、GPR120の遺伝子発現および蛋白量が増加していた。節状神経節におけるCCK-1受容体およびレプチン受容体mRNAには両群ラットの間に差を認めなかった。
結論: DIOの出現には、満腹ペプチドの低下や腸管栄養素受容体の変化に起因する脂肪による満腹感の低下が部分的に関与している可能性がある。
解説> 生理的には、脂肪やブドウ糖などの摂取によりCCK、PYY、GLP-1などの摂食抑制消化管ペプチド分泌が増加し、これらが迷走神経終末に存在する各ペプチド受容体を活性化し、中枢神経系に摂食抑制シグナルが伝達が伝達されと考えられています。
DIOでは脂肪(イントラリピッド)投与後の摂食量抑制が低下しており、腸管での食欲抑制ペプチド含量が低下していたことから、DIOでは食欲抑制(満腹)ペプチドのシグナリング低下の結果、高脂肪食でも摂食量抑制が不十分となり、体重増加につながる可能性を示唆した研究です。
この研究では脂肪によるCCK、GLP-1分泌に関与すると考えられているGPR40、GPR120、またPYY分泌に関与していると考えられているGPR41の発現が増加していました。著者らは受容体遺伝子多型や受容体シグナリング過程における変化により各GPR系での情報伝達が障害され、ペプチド分泌の低下と、それに対するフィードバックによる受容体発現の増加がもたらされる可能性を考察しています。
FA Duca, TD Swartz, Y Sakar and M Covsa
Internat J Obesity advance online publication, 1 May 2012; doi:10.1038/ijo.2012.45
肥満は環境因子(食事)と遺伝因子の相互作用によりもたらされると考えられます。したがって、多遺伝子的な食餌誘発肥満(diet-induced obesity, DIO)の動物モデルはヒトの肥満を反映する優れたモデルと考えられます。高エネルギー高脂肪食にさらされるとラットの一部は肥満となりますが、肥満をきたさないラットも認められます(DIO resistant, DR)。DIOではエネルギー摂取とエネルギー効率の上昇が認められ、末梢代謝、中枢神経機能、報酬行動、腸管シグナルなどの異常が原因と考えられています。動物モデルでは肥満とともに腸管内の栄養素に対する反応性低下が認められるとの報告があり、食後の栄養素、あるいは高脂肪食からの抑制的なフィードバックが十分に機能しないことがDIOラットにおける過食や体重増加に寄与している可能性も考えられます。
脂肪はcholecystokinin(CCK)やglucagon-like peptide-1(GLP-1)分泌を強力に促進し、慢性的な高脂肪食摂取によりヒトにおいて血中CCKが増加します。しかし、高脂肪食で飼育した動物では、血中peptide YY(PYY)やGLP-1が低下し、外因性に投与したCCKおよびGLP-1に対する反応性が低下していると報告されています。さらに、肥満者では非肥満者に比し食後の血中CCK、GLP-1、PYYが低下しているとの報告もありますが、必ずしも知見は一致していません。一方、胃バイパス手術後の体重減少では、これらのペプチド濃度の上昇を認めます。DIOラットにおいて消化管栄養素に対する反応性に関しては報告がありません。
腸管内分泌細胞の管腔側にはG蛋白共役型受容体(GPR)が存在し、ペプチド分泌の調節に関与していると考えられています。たとえば、GPR40およびGPR120は中鎖および長鎖脂肪酸により活性化され、CCKおよびGLP-1分泌を促進させます。一方、PYY分泌細胞に存在するGPR41は短鎖脂肪酸により活性化されPYY分泌を促進させます。このようなことから、著者らはDIOラットにおいて高エネルギー高脂肪食負荷および結果として出現する肥満により、これらの受容体や腸管ペプタイド分泌に変化がもたらされる可能性を考えました。
食物摂取、エネルギーバランスを調節する消化管シグナルは迷走神経求心路を介して統合されます。たとえば、CCK-1受容体およびレプチン受容体は迷走神経求心路に存在し、これらの変異は過食と肥満をもたらします。さらに、高脂肪食負荷や肥満はCCKに対する迷走神経の感受性低下やレプチン抵抗性を伴っていることが報告されています。今回、高エネルギー高脂肪食を投与したDIOラットにおいて、胃内への栄養素投与に対する摂食行動変化、腸管ペプチドの遺伝子発現および蛋白量、さらに腸管上皮でのGPRまた神経節での食欲抑制ペプチド受容体の発現が検討されました。
背景・目的: 食餌性肥満(DIO)は遺伝的および環境的(食事)因子の相互作用によるヒト肥満の優れたモデルである。このモデルでの過食には末梢での満腹シグナルに対する反応性低下が原因となっている可能性がある。本研究では高エネルギー高脂肪食を投与したDIOラットおよびDRラットにおいて栄養素を投与した際の満腹反応(摂食量減少)および腸管の満腹(食欲抑制)ペプチド含量、腸管の栄養素受容体、および迷走神経摂食抑制受容体発現を検討した。
方法: 非近交系ラットに高エネルギー高脂肪食を負荷し、各個体の体重増加の程度により全体を3分し、上位3分の1をDIO、下位3分の1をDRとした。DIOおよびDRラットにブドウ糖あるいは脂肪(イントラリピッド)を胃管で投与し、その後の摂食量を検討した。近位腸管上皮の満腹ペプチドおよび脂肪酸受容体の遺伝子発現および蛋白量を検討した。合わせて、節状神経節におけるCCK-1受容体およびレプチン受容体mRNAを検討した。
結果: DRラットに比し、DIOラットにおいてイントラリピッド投与後の摂食抑制反応は低下していたが、ブドウ糖投与後の摂食量低下には有意差を認めなかった。DIOラットではDRラットに比し、腸管CCK、PYY、GLP-1含量が低下していた。DIOラットではGPR40、GPR41、GPR120の遺伝子発現および蛋白量が増加していた。節状神経節におけるCCK-1受容体およびレプチン受容体mRNAには両群ラットの間に差を認めなかった。
結論: DIOの出現には、満腹ペプチドの低下や腸管栄養素受容体の変化に起因する脂肪による満腹感の低下が部分的に関与している可能性がある。
解説> 生理的には、脂肪やブドウ糖などの摂取によりCCK、PYY、GLP-1などの摂食抑制消化管ペプチド分泌が増加し、これらが迷走神経終末に存在する各ペプチド受容体を活性化し、中枢神経系に摂食抑制シグナルが伝達が伝達されと考えられています。
DIOでは脂肪(イントラリピッド)投与後の摂食量抑制が低下しており、腸管での食欲抑制ペプチド含量が低下していたことから、DIOでは食欲抑制(満腹)ペプチドのシグナリング低下の結果、高脂肪食でも摂食量抑制が不十分となり、体重増加につながる可能性を示唆した研究です。
この研究では脂肪によるCCK、GLP-1分泌に関与すると考えられているGPR40、GPR120、またPYY分泌に関与していると考えられているGPR41の発現が増加していました。著者らは受容体遺伝子多型や受容体シグナリング過程における変化により各GPR系での情報伝達が障害され、ペプチド分泌の低下と、それに対するフィードバックによる受容体発現の増加がもたらされる可能性を考察しています。
by kamikubo_clinic
| 2012-05-15 14:03
| 脂質